JIDA

33期インハウス女性デザイナー研究会 年間活動報告

 

 

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JIDAインハウス女性デザイナー研究会は、JIDAインハウス委員会の中に属した、デザイナー育成の場を提供する施策のひとつ。年度※を一区切りとし、年度初めにテーマを決め、月に1度定例会を開催している。
(※新型コロナウイルス感染症拡大の影響により一時活動休したため33期は2019年4月~2020年11月まで活動)
この若手を対象とした異業種活動は「活動で得たものを各社に持ち帰り、業務の革新に活かすこと」を成果目標にしている。各企業の代表として参画するデザイナーが、他社と交流しながら、普段の業務から離れた経験をし、課題解決の手法を積み重ねることで知識を広げ、参加メンバーの職能を向上させる「成長」の場となっている。

 

1.    第33期の活動概要

運営

◆研究会
本会は、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会賛助企業のデザイン部署等に所属する女性で構成する。

本年度参加企業(五十音順)
キヤノン(株) / (株)GKダイナミックス / (株)電通 / (株)東芝 / 東芝テック(株)
トヨタ自動車(株) / 富士ゼロックス(株) / 三菱電機(株)

◆メンバーと役割
委員は1年毎の改選とする。

本年度委員
委員長    角田 真結子    東芝テック(株)
副委員長   坂本 茜          キヤノン(株)
       高嶋 結        (株)電通
会計     及川 史織      富士ゼロックス(株)
                釜本 真有      三菱電機(株)
                吉田 香織      キヤノン(株)
日程管理       南 安           トヨタ自動車(株)
写真           近藤 晴子     (株)東芝
           増井 史織     (株)東芝
データ管理  綾田 孝世      (株)GKダイナミックス

 

活動方針

①    研究テーマ活動
本会は、インハウスデザイナーの視点から通年の研究テーマを設定し、これに沿った活動を行う。
②    異業種交流体験の充実
各社の特色を生かした知見に触れられる場を設け、各自の新しい気づきを促す。

①②の活動を行うことにより、各メンバーのスキルアップと独自視点の研究報告によって参加企業に資することを目的とする。

 

活動実績

今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、一時活動を中断。再開後はWebミーティングを中心に活動。
2019年4月~2020年2月まで
■   定例会(研究活動、各企業訪問)    年11 回
2020年7月~2020年11月まで
■   Webミーティング    (研究活動)    月4回(各2h)
■    Web研究報告会        1 回

 

2.  研究テーマ活動

背景

◆様々な社会変化と余暇
人生100年時代と言われる現代では、年齢の区切りにとらわれない人生の選択が可能になりつつある。また、仕事の場では働き方改革の推進により、個々人に最適なワーク・ライフ・バランスが浸透している。これらの結果、人々が自由に使える余暇の時間は増加傾向にあると言えるだろう。
そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大対策から生まれた様々な新しい生活様式において、余暇の過ごし方はより多様化している。

◆余暇の満足度低下
余暇の増加や多様化の一方で、内閣府の国民生活に関する世論調査によると、余暇時間を満足に過ごせている人は調査対象者の6割と決して多くはない。また、同じく内閣府のコロナウイルス感染症影響下における生活意識と行動の変化に関する調査からは、生活満足度全体が下落しており、特に生活の楽しさや面白さの満足度低下が顕著だということが分かる。余暇は生活の中の楽しさや面白さに強く起因する項目であるため、余暇自体の満足度が低下していることも予想できる。

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参考文献: 内閣府平成30年度世論調査(新型コロナウィルス感染症拡大前時点)
https://survey.gov-online.go.jp/h30/h30-life/2-1.html

 

テーマの深掘り <あそび方改革>

◆調査・分析
余暇の満足度を向上させるための要因とは何かを確認するために、第33期JIDAインハウス女性デザイナー研究会(以下、JIDA女と表記)では、余暇の過ごし方とその満足度を調査し、休日と平日それぞれの余暇に対する各行動の充実度を分析した。

余暇の満足度が高い人の共通点

  • 自らが満足できる<遊び>を能動的に探し、実践している
  • 遊びの中に明確な<ときめきの源>を持っている

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◆仮説
ときめきの源のことを、私たちは<トゥンク>と名付けた。トゥンクとはドキドキしたり、感情が大きく動いた等の状態を示す擬態語として、ネット上で親しまれているフランクな表現である。
また、トゥンクを発見する力となるあそび心と、新しいトゥンクとの出会いが今の世の中には必要であるという仮設を立てた。

トゥンクの例

  • 心に響いた綺麗な瞬間を写真に残すことで得られる、 <きれいなもの>というトゥンク
  • 友達とzoomでボードゲームをし得られる、 <コミュニケーション>というトゥンク
  • チクチク無心に羊毛フェルトをつくることで得られる、 <無心になれる>というトゥンク
  • 河原を散歩しながらポテトチップスを食べることで得られる、 <開放感>というトゥンク


さらに、調査からトゥンクにはレベル分けができることが判明した。それぞれのレベルは、余暇の過ごし方や遊びに対して、抵抗感や罪悪感がある人をトゥンクを失った<Noトゥンク状態>、余暇の過ごし方に発展性がなく、いつも同じ時間の過ごし方をしている人を<しまい込みトゥンク>、そして、 自発的に新しいトゥンクを発見し、広げ、余暇に満足している人を<トゥンクマスター>と定義した。

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では、どうすれば多くの人がトゥンクを得て充実した余暇が過ごせる<トゥンクマスター>になれるのか。 昨今、Go toトラベルやGo toイートを始めとした、コロナ禍での余暇充実のために「行動面」でアプローチする施策は増えている。その一方で、余暇を充実させるための「意識」に対する施策はまだない。

そこで私たちは、多くの人がトゥンクによって余暇をより満足できるものとするための提案をするにあたり、<あそび方改革>を今年度のテーマに据え、調査で得られた仮説をもとに、あそび心を鍛え、新しいトゥンクの発見を促すゲームを作成・提案することとした。

 

成果物 <トゥンク!マスター>

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◆コンセプト
あそび心を鍛え新しいトゥンクの発見を促すことで、充実した余暇を過ごすマインドを作る。

◆ユーザー
余暇をもっと充実させたい人
新しいワクワクに出会いたい人
子供の心を取り戻したい人

◆仕様
「トゥンクワード」、「パワーワード」、「あそびシート」、「ふりかえりシート」の4つで構成されるゲーム。カードに記載されている「トゥンクワード」と「パワーワード」を使って、<新しい遊び>を発想し、共有する。

  • トゥンクワード(6ワード×18枚)
    遊びに対する<ときめきの源>を示すワード。自身のトゥンクを再認識したり、新しいトゥンクと出会うことができる。
  • パワーワード(6ワード×18枚)
    自分自身が考える遊びに対する固定観念を崩し、発想を広げるためのワード。
  • あそびシート
    考えた遊びのタイトルや内容を記載しグループ内で共有するシート。
  • ふりかえりシート
    ゲームを通して自身がどんな言葉や遊びに対して共感したのかを振り返り、グループ内で共有するためのシート。

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◆ゲームの効果とフロー
「再認識」、「出会い」、「発想」、「共有」、「振り返り」の5ステップで構成されている。
発想するだけではなく、グループ間で共有することで、遊びに対する抵抗感を無くし意識改革ならぬ<あそび方改革>を達成することのできるパッケージとなっている。

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◆新型コロナウイルス感染症への対
Withコロナパッケージの作成
これまでとは異なる新たな生活様式に対応したトゥンクの発見が可能となる追加パッケージ。ゲームで使用する「パワーワード」をコロナ禍で話題となったワードで構成していて、ゲームを通してWithコロナの余暇をより豊かにするための意識改革ができる。


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オンライン用スマホアプリの作成
感染防止のため、対面でのゲームツールに加えWebミーティングでのゲーム実施を可能とするスマホアプリを作成した。対面に比べグループメンバーの表情や声が認識しづらいことを考慮し、遊びへの評価方法を<トゥンクボタン>に変更して感覚的かつ視覚的に肯定感を得ることが出来るようにした。本アプリ内では各種ワードや説明書の確認もできる。

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報告会
2020年11月27日 zoomにて開催。計21団体、約50名の方々にご参加いただき、研究内容報告とオンラインでのワークショップを実施した。オンラインでの円滑なワークショップ運営のため、参加者をzoom内のグループに分けて進行したり、スマホアプリを用いて参加者の反応の見える化をしたりといった工夫を盛り込んだ。

◆参加者の声

  • ゲーム内で発想した遊びをすぐにでもやってみたいと思った。
  • 「こんなこともトゥンクになるな」、「このトゥンクは最近経験できていないな」など改めて気づくことが出来た。
  • 些細なことでも遊びにできていた子供のころを思い出し、童心に返ることが出来た。
  • ぜひ会社に持ち帰ってワークショップを実施してみたい。
  • ゲーム形式のワークショップがとても盛り上がり、オンラインワークショップの可能性を感じた。
  • コロナによる社会の変化に対し、デザインで問題解決をしていく姿勢が良かった。

 

3.  異業種交流活動

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各社の協力を仰ぎながら、33期では下記の内容を実施した。
 
■ 4月 /(株)東芝
東芝未来科学館の見学 / アイデア発想ツールの紹介
■ 5月 /(株)日立製作所
国分寺の協創の森・協創棟の見学
■ 6月 / (株)キヤノン
Canon Galleryの見学 / デザイン開発事例の紹介
■ 8月 / 富士ゼロックス(株)
資生堂S/PARKの見学
■ 9月 / 東芝テック(株)
TEC UXLabの見学 / 業務の紹介
■ 10月 / トヨタ自動車(株)
トヨタ産業技術記念館の見学

各社の取り組み紹介では、普段なかなか知ることができない他業界の製品やサービスの誕生秘話を聞くことができ、デザインの可能性の大きさに改めて気づくことができた。
また、通常では立ち入ることが難しい施設の見学といった本活動ならではの貴重な体験も、参加企業の協力により実現した。

 

4.   33期総括

私たちは「人生100年時代」「働き方改革」などの社会背景から人々の余暇の増加に着目し、<あそび方改革>をテーマとして活動して参りました。しかし、予定していた報告会の直前である2020年2月頃から新型コロナウイルスの感染症拡大が進み、私たちが当初想定していた社会の変化もまた、想像をはるかに超えるスピードで進みました。そして、これまで会社訪問による異業種交流を大事にしてきたJIDA女の活動も変革を起こさざるを得なくなりました。その後、私たちは数カ月の休止期間を経てオンラインでの活動を再開し、提案背景の再整理やワークショップの運営準備に多くの時間を費やしました。一方で、困難な環境下での研究活動において、オンラインツールによるコミュニケーション環境の整備により、従来と同等レベルの意思疎通が実現し、メンバー同士の対話から今年度成果物である<トゥンク!マスター>が誕生しました。この経験から私たちは、JIDA女の交流活動が単なる情報交換ではなく、お互いの得意を活かしあう共創の場であることを実感し、メンバー同士の円滑なコラボレーションがいかに大切であるか再認識することが出来ました。
来年度の活動も活動形式の制約があるかと思いますが、このような状況下において多様な業種のデザイナーが集まりそれぞれの知見を共有できる場はとても貴重です。今年度の活動で得た経験を活かし、新しい交流の形を模索しながら、引き続き様々な提案を創出する場としてJIDAインハウス女性デザイナー研究会は発展に努めて参ります。今後とも暖かいご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
最後に、本研究で開発した<トゥンク!マスター>のゲームツールをページ内で公開いたします。広くご活用いただき、みなさまの余暇時間が充実するものとなれば幸いです。
( 角田 真結子 東芝テック(株) )
文責: 坂本 茜 キヤノン(株) / 吉田 香織 キヤノン(株) / 角田 真結子 東芝テック(株)

 

5.  ゲームツールのダウンロード

◆ゲームツール 
説明書
さいころ
トゥンクワード&パワーワード
あそびシート
ふりかえりシート
オンライン専用スマホアプリ

◆利用規約
本動画とツールは、職場や家庭内でのコミュニケーションツールとしてのご使用を想定しています。商用としての再配布、無断転載、転売は禁じます。ご意見、ご感想、お問い合わせのある方は日本インダストリアルデザイナー協会までご連絡ください。

公益社団法人 日本インダストリアルデザイナー協会
〒106-0032 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F
E-mail:jidasec@jida.or.jp
発行日2021年3月31日
発行 JIDAインハウス女性デザイナー研究会33期