JIDA

24期インハウス女性デザイナー研究会活動報告

 

 

■インハウス女性デザイナー研究会の活動

JIDA Inhouse female designer’s research association(インハウス女性デザイナー研究会)は、4〜3月までの一年間を一区切りとして活動しています。年度始めに活動テーマを決定して定例会を毎月開催し、宿泊研修を年に一度行います。

24回目を数える今期は、テーマを「これからのものづくり 〜新しい価値観の発見」と題し、2011年2月28日に研究報告発表会を開催しました。

 

■今期の活動にあたり、着目した点

昨今の経済危機の影響を受けて、コストのかかる模型や展示物の作成、宿泊研修を行なうことが困難な状況である中、「いかに実りある勉強会にすべきか」と考え、その中で「これからのデザインに必要なことは何か」を見直しました。そこで今期は、いかにユーザーの心をつかむことが出来るかを考え、ユーザーの求める感覚を探る為、直接ユーザーと話し合う“ワークショップ”という新たな研究方法に着目しました。

 

研究テーマの模索

背景

ものが売れないという時代に私達は何に価値を感じているのでしょうか。特に、次世代を担う若者達は物欲がなくなってきていると言われています。

近年、農業体験やカーシェアリングの普及などに見られるように、ユーザーはモノ(所有)から、コト(体験や感覚)などにお金を払う時代になりつつあります。

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気づき

これからは、モノのデザインだけでなく、いかに異なるユーザーの価値観を把握し、求める体験や感覚を掴み取ることが、デザインをしていく私達にとって重要なポイントであると考えました。

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仮説

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雑誌や評価からの分析ではなく、直接ユーザーと接することにより新たな価値の発見が出来るのではないか。

 

 

研究テーマの決定 「これからのものづくり〜新しい価値観の発見〜」

【ワークショップ開催準備】

これからの消費を牽引していく学生(若者)を対象としたワークショップを開催し、これからのユーザーの価値観や嗜好性について、改めて考えてみました。

 ワークショップの準備として、先ず自分たちでワークショップをシミュレーション。メンバーの経験を活かしてペルソナ(※1)、マインドマップ(※2)、イメージボード(※3)、ブレインストーミング(※4)などの手法を用いました。

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ワークショップに参加する学生を募集し、参加者達に事前課題として出した自己ペルソナ情報を元に、数量化Ⅲ類法(※5)を用いてグルーピングを行 な いました。

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ワークショップの開催

1.お仕事紹介

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メンバーの仕事内容や担当した製品を紹介しました。

 

 

2.学生達とランチ

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学生たちと打ち解け、スムーズに本音を引き出してもらうために一緒に昼食をとりました。

 

 

3.グループ作業

inhouse08.jpg課題に対して視野を広げるため、グループでマインドマップを作成しました。

 

 

 

 

 

4.個人作業

inhouse09.jpg各自が価値を感じているもの、ことについてイメージボードを作成しました。

 

5.発表、投票

inhouse10.jpg出てきた内容をグループでまとめて発表を行いました。共感する価値観にも投票をしてもらいました。

 

※1 ペルソナ:抽出したキーワードや写真を見ながら具体的にイメージし、人物像を作ること。
※2 マインドマップ:キーワードから放射状に言葉やイメージを繋げていくことで発想を広げていく図解表現技法。
※3 イメージボード:イメージしたものを実際に写真や言葉でビジュアル化したボード。
※4 ブレインストーミング:集団アイディア展開。
※5 数量化Ⅲ類法:程度や状態、Yes/Noといった質的なデータに数量を与え、多次元的解釈を行なう手法。

 

6.懇親会

inhouse11.jpg学生たちとの懇親会では、ワークショップの中では聞けなかった色々な話も聞くことが出来ました。

 

 

 

分析・考察

ワークショップで作成されたイメージボードや、実際に会って話した印象、感じたことなどをキーワードとして洗い出し、グルーピングし直しました。その中から、今までにない新しい価値観になると考えるカテゴリーを4つ抽出し、本年度の提案としてまとめました。

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拾い出した4つのユーザー像と、その価値観や世界観を、デザイナーとして、ロゴデザイン、ビジュアルや素材で表現し提案を行ないました。

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新しい消費者層が持つ新しい価値観・世界観に応えうる魅力的なモノ(コト)づくりの一要素として、本年度の提案を活かしていきたいと考えています。

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ワークショップを終えて

通常業務では、プレゼンテーションの説得材料として雑誌・ネットから一般論的なユーザー像を拾い出す作業が多くを占めています。そんな中、「果して自分たちが作ったモノは、本当にお客様・社会に求められているのか?」初のメンバー顔合わせで、インハウスデザイナーとしての疑問が上がりました。

今期は、そのような危機意識の元ワークショップを開催し、学生たちと交流することで実感した『机上の印象』と『本当のユーザー像』の違いは想像以上!自分を「オタク」と書いていた学生が意外に広い趣味を持っていたり。『エコ』という言葉の中にも様々な捉え方がある・・・等、多くの発見がありました。

純粋なメンバーの疑問からスタートした今期ですが、現在のモノ作りのあり方を考えさせられる研究テーマになりました。

 

■異業種交流

本年度は、ワークショップという新たな試みと共に、異業種交流も実施。以下の2点を体験しました。

1.エステ体験&美術館鑑賞(パナソニック電工)

inhouse15.jpg白衣の女性に説明をして頂きながら、イオンスチーマーと毛穴エステを試用。全員、美容のことには興味津々で、最新スチーマーによる美肌と、毛穴エステのリフトアップ、毛穴ケアの効果を存分に体験しました

 

 

inhouse16.jpgその後、同ショールームに併設されている美術館で開催されていた「ハンス・コパー展 20世紀陶芸の革新」を鑑賞。ルーシー・リーとも親交が深かったコパーの、モダンで独特な造形と表面の質感の美しさを堪能しました。

 

<エステ体験の感想>

日ごろの疲れたお肌がしっとり潤って幸せな気分になりました。単に商品の説明をするだけでなく、体験としてその商品の価値を感じられるようなショールームがあるというのは、ユーザーにとって非常に嬉しいことだと感じました。パナソニックさん、ありがとうございました!
(千木良康子(株式会社東芝))

2.電気自動車I-MIEV試乗(三菱自動車工業株式会社)

inhouse17.jpgとにかく静かで浮いているような感覚。普通の車だと前の席との会話がしづらいことがあるのですが、静かなので、スムーズに会話ができます。エンジン音が無い分、キーを回したときの音やインパネの表現が、ガソリン車よりも重要になると感じました。

また、セルフ給油が増えた昨今、給油の際に汚れや臭いを気にしていましたが、電源プラグになったことで、地球環境だけでなく実際に使用する場面でもクリーンな印象を受けました。充電も100Vと200Vの充電口があり、自宅の普通のコンセントでも充電できるのですね。でも…、値段が高い!

<電気自動車試乗体験の感想>

充電池が安くなれば、電気自動車の値段も下がるそうですNECでも電池を開発しているので貢献できればいいなと感じました。車に興味がなかったのですが、もし免許もっていたら電気自動車が欲しいです。(永井知沙(NECデザイン&プロモーション株式会社))

試乗させていただいた販売店の方の対応がとても親切丁寧で、三菱自動車全体に好感を持ちました。メーカーやブランドのイメージが、「モノ」だけではなく、その周辺の人や情報に大きく影響されるということを改めて実感する体験となりました。(越由紀子(セイコーエプソン株式会社))

 

■研修旅行

江戸切子ガラス制作体験

inhouse18.jpg従来の研修旅行と大きく異なる点は、研修費用の捻出のあり方です。不況により多くの企業が出張や研修費の削減を行なう影響を受け、宿泊研修を行なうことが困難な状況になりました。そこで、JIDA女性会は自立して体験研修が出来るように、1年間の活動プランを立てました。新たな試みのワークショップと報告会の参加費から研修費用を捻出し、無事に活動を終へて、体験研修を行うことが出来ました。

研修旅行では、デザイナーとして有意義な体験を行うため、素朴でありながら日本の伝統を継承している下町隅田での江戸切り子のガラス製作を体験しました。切り子のガラスの種類、制作方法、道具の扱いや加工方法などを学び、自由に個人作業を行ないました。職人技の難しさを感じながら、自分ならではのデザインを施した作品を作り、切り子のガラスの魅力を知ることが出来ました。

 

 

 

 

inhouse19.jpgまた、偶然ではありますが、最終日の研修では東日本大地震に参加メンバーは居合わせました。

 

 

<研修旅行の感想>

今回の研修はデザインすることについて、新ためて考えてみる時間にもなりましたし、自分達で体験しながら職人の技やモノづくりの大切さを感じる良い機会でありました。(べ・スヨン(三菱自動車工業株式会社))

震災後の東京はパニック状態。被災者側に立って始めて、緊急時におけるデザインの重要性も体感しました。今期の多くの気付き・体験を今後クルマ作りにも反映させていきたいと思います。(岡本桃子(トヨタ自動車株式会社))

物づくりの原点である伝統工芸を体験することで、情報もモノも十分にあり溢れる現代だからこそ、モノに対する思い入れも、情報に対する実感も乏しくなっており、自分自身で感じられる“コト(体験や感覚)”に価値を感じるのだろうと改めて実感しました。(河村 玲永子(三菱電機株式会社))

 

■24期活動を終えて

自分達で問題を上げ、自分達で問題を分析解決していくということは、日々の業務でもなかなか無いことでした。全くのゼロから出発し、どのようにまとめていくか、何も制約のない中では本当に考えることが多かったです。その中でもしっかりとまとめ上げる事が出来たのはこのメンバーだったからだと思います。作業を通して様々な意見を交換することができ、一人では思いつかないような広い観点で物事を見る良い機会になりました。ワークショップの開催に当たっては、みんなで仕事を分担、主催し、学生たちを集めて開催し、報告会にまで来て頂いて、「感動しました」「勉強になりました」という言葉を沢山聴くことが出来て、とても感激しました。「自分たちで頑張ってみせる」という、みんなのパワーがお互いを刺激し合い、自分たちで考えた「テーマ」に向かって前進することが出来たからこそ、メンバー一同大きく成長したのではないかと実感しております。

来期も異業種交流、デザインする上での新しい発見やJIDA女性会ならではの実りある活動を進めていきたいと思います。

 

<メンバーの感想>

ここまでの成果が出せたのもメンバー全員のスキルが高く、お互いの知識や知恵を惜しみなく共有発展させることができたからだと思います。少ない定例会数にも関わらず素晴らしい経験ができました。(須賀千紘(パナソニック電工))

 「自分で問題提起し、考え、決断し、人に伝える」という一連の経験では、本当に多くのことを学びました。また委員長という立場でメンバー全員に支えられながら活動が出来たことも、実りある経験となりました。(岩澤絵美子(日産自動車株式会社))