理事長挨拶
「プロダクトデザインを、社会と産業を動かす力へ」
2025年6月14日をもちまして公益社団法人 日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)の理事長に就任いたしました、村田智明です。長年にわたりプロダクトデザインの分野で社会課題の解決や企業変革に関わってきた中で、今あらためて強く感じているのは、デザインが社会に与えるべき本質的なインパクトとは何かという問いです。
JIDAは1952年、戦後復興と高度経済成長のさなかに、日本の工業製品の質的向上とデザインの社会的価値の確立を目的に設立されました。以来70年以上にわたり、製品デザインの専門家集団として、工業、流通、生活文化、教育、行政と多様な領域に働きかけ、日本の産業と生活を支えるプロフェッショナル・ネットワークを築いてきました。これまで歩んできた歴史の延長線上にあるのは、「よりよい未来をデザインによって実装する」という揺るぎない使命です。
私は今、JIDAを、単なる業界団体ではなく、社会に対して積極的に働きかける“デザインによる社会実装の中核機関”として再構築したいと考えています。
世界を見渡せば、プロダクトデザインがイノベーションの起点となり、経済や文化の変革を牽引している事例が数多く見られます。その原動力は、未来の暮らしや製品、サービスの姿を“ビジュアルに可視化”し、人々に共感と行動を促す力にあります。日本でも、そうしたデザインの本質的価値をもっと社会全体に浸透させていく必要があります。
そのために、JIDAは今後数年をかけて、組織の開放性と影響力を一段と高めてまいります。まず、企業・行政・教育機関と連携し、全国規模の産業・研究ネットワークを再構築します。素材加工や社会課題の研究、ビジネスプロデュースに関する専門委員会の知見を軸に、日本の素材技術とデザインを融合させ、世界に通用する製品開発の基盤を築いていきます。
また、全国の支部活動やセミナーの蓄積を統合し、JIDA独自の「デザインスクール」構想を立ち上げます。これは、デザイナーの技能やビジネス感覚を再教育し、新たな価値を社会に提案できるプロ人材の育成を目指すものです。加えて、製品やサービスが社会に届くまでのプロセスを可視化し、その背景にある戦略や判断を社会に伝えることで、デザインが企業価値に直結するものであることを明らかにしていきます。
いま求められているのは、造形や演出にとどまらず、複雑な課題に応答する統合的な「知と感性」を備えたデザイナーです。JIDAは、こうした次世代型のハイブリッド人材を育成する環境づくりにも注力し、社会を変えるためのビジョンと行動力を持った仲間を増やしてまいります。
デザインは、未来を構想し、それを人々に“疑似体験”させる力を持っています。その力こそが、投資や政策、技術を動かし、社会を前進させる起爆剤となります。JIDAは、これからの時代にふさわしい「社会に効くデザイン」を掲げ、実装と発信の両面からその価値を高めていきたいと考えています。
未来を描き、行動を誘発するデザインの力を、会員の皆さまと共に育んで、広げていきましょう。
2025年6月
公益社団法人 日本インダストリアルデザイン協会
理事長 村田智明

村田 智明 (むらた ちあき)
協創研究センターイノベーション教育研究所
客員教授
新潟ポテンシャルラボ
総合プロデューサー