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コラム1「デザイナーの常識、良識、見識」

安藤 孚
東日本ブロック

はじめに

元会員の佐野邦雄さんが急性心筋梗塞(享年76才)で亡くなられて、まもなく4年になります。この度、佐野さんが2008年から2010年まで10回程続けていた、コラム「元気出せデザイン」の継続を堀内ブロック長から依頼され、引き受けることにしました。

佐野さんのコラムについては非常に興味深く拝見し、大変参考になりました。佐野さんの貴重なキャリアには大変敬服しています。

私は、今はない協会の機関誌「ホットライン(Vol .75)」に寄稿した「JIDAと私」でも記述した通り美術学校、美術大学という片寄った専門教育機関を経た私にとって、プロダクトデザイナーとしての常識、良識、見識など「心得」に欠けた私自身の反省も含めて、現状認識などを整理する機会と考えています。

コラムの主な内容は、

  1. 協会考論
  2. 情報収集 
  3. 雑感、他

 

協会考論 (1)

協会は、1996(平成8)年にアンケート「明日のJIDAの行方を探る」を実施(担当理事黒川威人)し、回答率40%を超える調査で会員の声を知る事が出来た。この調査結果を参考に、特に職能団体の課題を中心に次の3点について記述してみたい。

  1. 会員は、協会をどう理解しているのか。  (職能団体の役割と存在意義)
  2. なぜ、協会に入会するのか。入会のメリットは何か。 (入会目的)
  3. 協会で何をしたいのか。何が出来るのか。何をすべきか。 (活動参加への主体性)。

(1)-1「会員は、協会をどう理解しているのか」について。

戦後日本の生活文化の向上や国際産業競争力強化に寄与したといわれる「デザインの社会的有用性」についていえば、戦後70年以上も経た現在でもまだまだデザインビジネスが健全な産業構造として社会に定着している、といえる状態とは私は思っていない。例えば、社会は「デザイン」を正しく理解しているのか。デザインビジネスの効果的な取り組み方を知っているのか。成果の適正な検証や評価をし、成果報酬に結びついているのか。など等、行政や企業でのデザインの認識はまだまだ低く健全な状態とは見ていない。

特に、次の3項目について記述してみたい。

 ——社会を豊かにする「デザインの価値」——
 ——デザイナーという「職能の確立」——
 ——デザインビジネスの「健全産業化」——

 

——デザインの価値——

一般社会や中小企業などでは、デザインの意味と役割を正しく理解しているか。
 デザインが何故必要か。何故重要か。
 デザインを有効活用しているか。
 デザイン実践の健全ルールを知っているか。

これらの「デザインの社会的有用性」などについて専門教育機関や一般市民啓蒙をはじめ企業や行政との事業開発などを通してのデザインの普及啓発が、職能団体の最重要課題である。デザインは、社会(生活、文化、産業)を豊かにする。
「デザインが社会にどう機能するか」。職能団体の協会はデザインの理解と役割を関連団体や関連学会などとの連携で、デザインの概念整理も含めて「職能思想基盤」をしっかりと構築し、広く社会へ向けて広報活動をすることが、職能団体としての最優先事項である。

 

——職能の確立——

専門教育機関での、 デザインの職能教育やプロの現場で通用する専門教育をしているか。
デザインの現場での、プロとしての推進能力は盤石か。
 職能責任の自己管理や自由競争の対応力は盤石か。
 社会の理不尽な都合論に振り回されていないか。
 契約や報酬などで泣き寝入りしていないか。

産業革命(industrial revolution 英)による産業分業化で、本格的な工業化社会を迎えデザイナーという職能が誕生したといわれている。工業化社会では、モノに価値があり、モノづくりが中心の時代。1929年の世界恐慌でアメリカの商業主義を経て、戦後日本に本格的に導入されたといわれる、デザインの概念やデザイナーという職能。
しかし日本社会では当初、コスメティックアプローチ(外形の造形処理)として日本市場に定着し、今尚、日本社会では一般的にデザインは単なるモノの形や色と解釈されているのが現状である。例えば、デザインの実務には金は払うが、デザインクリニックには金を払わない、というように日本社会でのデザインビジネスはまだまだ成熟度が低い。

特に中小企業業界などでは、契約と報酬の問題、知的財産権での権利と責任の問題など等、デザインビジネスに対する取り組み方をはじめ、デザイナーとの関わり方など知識も情報も少なく、経験不足でトラブルも多いと聞く。
その一方で、日本のデザイン専門教育機関にも課題は多い。
日本のデザイン専門教育機関では、教育の中心は「造形教育」が多い。過去の専門教育では90%が造形教育という時代もあった。デザイン教育が中心で、デザイナー教育(デザイナーになる為の教育)がなかつた教育機関も多い。

 

——健全産業化——

ビジネスの現場での、デザインの成果が正しい検証や評価をしているか。
 関係者との信頼関係が強化されているか。
 行政や企業での「デザイン価値の質と対価」の意識が欠如していないか。

など等、デザインの現場での問題は今尚、山積している、とみている。日本の教育の成熟度や「水と安全とサービスはタダ」という社会の古い価値観に起因していないか。
デザインビジネスには「問題解決型(受注型)と問題提起型(提案型)がある。
デザイナーは、あらゆる機会を通して社会に自らの存在を広く発信することが重要で、このネットワーク戦略がビジネスの一丁目1番地。
どんなアンテナをもつかは、ビジネスチャンスに大きな影響を及ぼす。
モノと環境の最適解に強い意欲と能力を活かし、多様なニーズに対する実効的成果で応える問題解決の実務者であり、常に社会感度をもち、多彩で強力な提案力が求められる。同時に、デザインの社会的有用性を示す職能責任がある。

協会は、前方支援として、社会に向けて職能と社会の関係と有用性の広報に努める(公益活動)。
 後方支援として、会員の職能意識や自己管理、自己研鑽の補助に努める(共益活動)。
 側方支援として、協会の調査研究成果を活かした会員の事業機会に努める(共益活動)。
協会は、この「デザインの価値、職能の確立、健全産業化」の社会定着のために社会への普及啓発活動を通して、デザインの社会的有用性を発信すると共に職能団体として、デザイナーの「職能の健全な自由競争社会の確立」を実現する公益法人の責任がある。
デザインが社会に確実に機能すれば、社会に活力と品格のある持続的成熟社会で心豊かな文化と強い国際競争力のある安全で安心な快適社会を築くことができる。これがデザイン職能団体の最重要事項である。

 

情報収集 (1)

社会情勢や社会ニーズの把握、客観的な情報源として新聞・雑誌類からの情報収集は、デザイナーという職能にとって最優先事項の1つであろう。その中から、特に関心のあった記事を紹介したい。
今年は、30年の平成時代も終わり、新しい年号に変わる。関連する記事から2件。

 

1「失敗重ねた改革狂の時代」 (2019/1/19 朝日新聞 佐伯啓思)より

「平成とは「改革狂の時代」だったといいたい。元号が昭和から平成に替わったころ、私は在外研究で英国に滞在していた。そのころ社会主義国から西側への脱出が始まり、ベルリンの壁の崩壊へと続く。————略———にわか仕込みの金満家となった日本人は、ヨーロッパのまちまちで大挙してブランド店に押し寄せ、かの地の人々の失笑を買っていた。私には仲間が集まっても、ほとんど狭い専門研究の話か仕事の話しかしない日本の研究者やビジネスマンよりも、この世界的な大変化の時代にあって、英国はどういう役割を果たすのか、といったことがらに、それなりの意見をもっている英国の「ふつう」の人々に、何かこの国の目には見えない底力のようなものを感じていたのである。

帰国したころにバブルは崩壊し、経済は急激に失調するとともに日本人はまったく自信喪失状態になった。そうなると、われわれは直に「外国の識者」の助言を聞きたがる。

無責任に口をだしてくる(大半が)米国の知識人がおり、それを重宝がる日本のメディアがある。何が日本をこうさせたのか、という悪者探しが始まる。かくて,官僚システム、行政規制、公共事業、古い自民党、既得権益者、日本型経営、銀行などが次々とやり玉にあげられ「改革」へとなだれ込んだ。「改革無くして成長なし」といわれ、日本経済の低迷の理由はすべて改革の遅れにある。」という言説が支配する。30年たっても同じことが続いているのだ。まさしく「改革狂の時代」というほかないであろう。————略————平成の次の時代は、自前の国家像と社会イメージこそが問われる時代になるだろう。」

2 「分断と連帯の時代」 (2019/1/27 東京新聞 池上彰)より

「平成は国内ではバブルの崩壊、海外では東西冷戦の終結と共に始まりました。

平成という元号は「内平らかに外成る(史記)、地平らかに天成る(書経)」からの引用ですが、国内はデフレ経済に突入し、就職氷河期を迎えた若者たちは「生きづらさ」を感じるようになります。国外では、米同時多発テロをきっかけに「テロとの戦い」の名の下に国際紛争が多発します。中東のシリア内戦では多数の難民が欧州に押し寄せ、難民を受け入れるか拒否するかで欧州の分断が生まれます。————略————欧州では、それでも難民や移民を受け入れようという努力も続きます。連帯の動きもあるのです。元号が変われば時代の雰囲気も変わります。願わくば平和な時代を迎えられますように。」

 

その他 雑考 (1)

毎年元旦には、各新聞の「社説」の購読を楽しみにしている。今年は、読売新聞の社説が内容として読み応えがあった。

「読売新聞の社説」(2019年元旦)

「米国が内向きの政治に転じ、欧州はポピュリズムの横行と英独仏の混迷で求心力が低下した。

世界の安定を支えてきた軸が消えつつあるようだ。最も警戒すべきなのは米国と中国の覇権争いによる混乱である。 ———略———世界1位と2位の経済大国の対立は、安全保障や通商、ハイテクなど多岐にわたり、相当長い間続くと覚悟すべきである。米国とソ連による冷戦の終結宣言から30年、「新たな冷戦」に、米国の
同盟国であり、中国と深い関係にある日本こそが地域の安定と繁栄を維持する責務を粘り強く果たさなければならない。 ———略———「米国第一主義」のトランプ大統領への不安は尽きないが、1国で世界の国内総生産(GDP)の4分の1、軍事費の3分の1を占める米国を国際的な秩序の維持に関与させることが日本の国益につながる。 ———略———日本は、各国首脳との会談や、先進7カ国(G7)、6月に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)などの会議で、米中対立を緩和させるための議論を主導すべきだ。 ———略———中国と向き合うには、長期的な視点が欠かせない。中国は、日米欧とは異なる富強の大国の方向に舵を切った。威圧外交を展開し、軍事力を著しく増強した。他国のハイテク技術窃取、不公正な経済慣行、国内の厳しい統制は加速している。この30年、中国共産党総書記は習近平(国家主席)ら3人だ。同じ期間に米大統領は5人で、日本の首相は延べ17人に達する。習氏は2018年の憲法改正で、国家主席の任期制限を撤廃し、終身の在任に道を開いた。世界最多の消費者と巨大な産業基盤を抱え、GDPは30年間で約30倍となった。今世紀半ばには、米国並みの国力の「社会主義現代化強国」を実現するという。とはいえ、強い経済には陰りがみられる。———略———中国の強権的な拡張路線は、曲がり角に来ている。

中国に、国際的ルールの順守と日米欧との真の共存共栄を受け入れさせることが目標である。日本など、民主主義国の戦略と外交手腕が問われている。 ———略———4月30日、天皇陛下の退位で平成は幕を下ろす。30年間を総括し、内政の課題を明確にしたい。

1989年に世界の15%だった日本のGDPは6%に低下し、中国に抜かれて3位となった。人口は減少に転じ65才以上の高齢化率も28%に倍増している。国と地方の長期債務残高は1100兆円を超えた。医療、介護、年金は持続可能であると国民が実感できるようにしたい。安定した社会を、治安の良さや、教育屁の熱意、勤勉の尊重といった美点と共に次代に引き継ぎたい。
                                                                                    
                                   

更新日:2020.05.27 (水) 13:56 - (JST)]