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第95回「これからの紙使い・和紙使い」

 

【第95回勉強会報告】『これからの紙使い・和紙使い』 
【開催日】 12月18日(金)
【テーマ】
1000年前の和紙づくりから現在の和紙作りを手がける私たちと紙について考えてみませんか?
【講 師】
株式会社浜田兄弟和紙製作所 浜田治 氏・ひだか和紙有限会社  鎭西寛旨 氏
【参加者】 28名 
【会 場】 ZOOMにてオンラインセミナー形式
【概 要】
日本各地にある和紙生産地の中でも技術、伝統、独創性、紙の種類などで高知県の土佐和紙は日本全国においてトップクラスにあります。今回の勉強会では、土佐和紙の生産・企画・販売を手掛ける4社が集い多様な和紙とその魅力について語ります。
今日の土佐和紙は、豊かな表現性や品質からインテリア、ファッション、文房具などに使われるばかりでなく、その性能から世界的有名な文化財修復、さらには特殊なフィルターとしても用いられるなど、多様に用途が広がっており、インダストリアルデザイナーにとっても頭にいれておくべき素材の一つとなっています。本セミナーでは、どこかで見たことのありそうな和紙から初めて目にする和紙、これまでの用途や使用例の紹介し、これからの紙の使い方について従来の紙の使い方にとらわれず、自由な発想の製品展開を考えるきっかけとしたいとおもいます。



 


「紙の時間」の成り立ち

土佐和紙の関連企業4社から成るユニット「紙の時間」は、手漉き和紙生産を行う株式会社浜田    兄弟和紙製作所、機械漉き和紙生産を行うひだか和紙有限会社、小ロットの特注和紙から特注ラッピング製品の受注生産を行う株式会社モリサ、1910年和紙の問屋として始まった紙製品販売を行う関株式会社により構成されます。これまで土佐和紙の関連企業は、他品種(手漉きや機械漉き等の違い)の製品を扱う業態の企業と協働することは稀でそれぞれが独自のPRを行っていました。ところが(株)浜田和紙の浜田治氏と関(株)の川久保和宏氏の談話から「土佐和紙の合同イベントが開催できたら面白いのでは?」という発想が生まれ、合同展示会的なイベントを企画しようという話になりました。また、この機会に他の和紙屋も誘ってということになり、ひだか和紙(有)と(株)モリサが賛同し、4社による「紙の時間」が誕生しました。第1回の2017年は大阪・平和紙業ショウルーム、第2回の2019年は東京・平和紙業ショウルーム、第3回の2020年は紙の時間 “紙のホテル” をぺーパーボイス東京で開催できしました。なお展示会で発表されたプロダクトは、高知市内の株式会社アクセントデザイン事務所の小松和明氏が監修のうえ4社で製作しています。

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図1 “紙の時間”プロダクト(画像提供:株式会社浜田兄弟和紙製作所)



 

 

土佐和紙の話

日本では1000年以上前から生産されており、土佐和紙は日本3大和紙のひとつで他に美濃和紙、越前和紙があります。かつては、和紙は北海道と沖縄以外のほとんどの地域で生産され、その中で土佐は水質が和紙生産に適していました。特に粘剤トロロアオイの効力が程よく発揮しました。和紙の代表的な原料には、コウゾ、ミツマタ、ガンピがありますが、土佐のコウゾは繊維が細く長いという特徴を持ち、薄く丈夫な和紙を漉くことを可能としています。また、土佐が産地として大きい理由として、第一に、原料が豊富でコウゾ、ミツマタが多く収穫され、特にコウゾは良質であったこともあります。第二に、ヒノキの植林が多くあり、和紙製造用具を作るための良質な木材を得ることが容易なこと。第三に、和紙製造用具、簾、桁(和紙を作る1番重要な道具)も多く作られ用具職人の技術が高かったが挙げられます。しかし現在、和紙原料(コウゾ)生産者の減少が著しく、原料の入手が困難になっており和紙生産の喫緊の課題でもあります。





紙の時間を構成する4社の紹介

3.1「ひだか和紙」の機械漉き和紙 

ひだか和紙の機械漉きで生産可能な和紙の薄さは0.02㎜。ザ・シチズンの腕時計文字盤にも採用されています。また、ひだか和紙で生産される和紙の用途には、表具、ちぎり絵、ラッピング、ランプシェード、印刷用紙、芳名帳、樹脂フィルムとラミネートして機能を追加したワーロンシート。さらには、大英博物館(イギリス)、ルーヴル美術館(フランス)、火災にあった図書館の資料等の修復にも用いられています。これらの製品に使われる和紙の製造工程を次の図2、1~16に紹介します。

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図2 機械漉き和紙製造工程(画像提供:ひだか和紙有限会社)



 

3.2「浜田兄弟和紙」の手漉き和紙

手漉きというと、伝統的なスタイルの和紙の印象が強いかもしれないが、最近はアート作品やワークショップにも取り組んでいます。例えば、建仁寺で行われたレクサス匠プロジェクト(図3)が近年の代表作。その他、ガラスと和紙を組み合わせたインテリアの施工や個展、ちぎり絵のワークショップ等にも取り組んでいます。このように手漉き和紙も使われ方は多様です。

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図3 レクサス匠プロジェクト出展作品(画像提供:株式会社浜田兄弟和紙製作所)



 

次に手漉き和紙の製造工程を抜粋して図4に紹介します。

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粘剤トロロアオイ

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コウゾの釜焚き

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手漉き工程

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乾燥工程

図4 手漉き和紙の製造工程(画像提供:株式会社浜田兄弟和紙製作所)

 

 

3.3「モリサ」の和紙加工製品

小ロットの特注和紙から特注ラッピング製品の受注をおこなっています。社内にLady Risaという女性中心のアンテナショップとWEBショップを置いて、店内には和紙に印刷することが出来る大型インクジェットプリンターもあります。個人・法人を問わず記念品やノベルティグッズの相談は気軽に受けられるような環境を整え、和紙は特別なモノでなく日常のモノという感覚で袋物や特にコスメ関連の商品には力を入れています

 

3.4「関」の紙卸売

1910年和紙の問屋として始まった紙製品の販売会社です。家庭用紙、洋紙、包装材、和紙等を扱っています。「土佐の和紙は、美濃や越前に比べ、知られていない。それと後継者の不足に問題がある。」と痛感しています。まずは素材を見えもらうところからスタートしたいと考えています。今年(2020年)発売した牧野富太郎博士の人生を美しいイラストで彩った和紙の絵本が話題になりました。この絵本を作るときにわかったのは、和紙への印刷は上質な和紙を使えば印刷は難しくないということです。印刷業界では、和紙への印刷は紙粉が出ると嫌われていたことを、今回のプロジェクトで初めて知りました。こういう事例は他にもあるように思います。和紙は小ロットで生産できるので小回りが利きます。こういった和紙ならではの良さを広めたいと考えています。

以上の4社から参加者に多様な和紙のサンプルが提供されましたが、残念ながら時間不足で、それぞれの和紙の詳細な解説は伺えませんでした。
 


おわりに

勉強会の前の講師お二人との会話の中で印象的な言葉がありました。鎮西氏の「記録メディアとしての和紙の役目は終わった。だからこそ、これからは体験を通して感性に訴え、人の記憶に残るモノを追求していきたい。」という言葉。浜田氏の「ほどほどに仕事して、美味しいものを食べて生活する。こういった生活がこの土地にある。」という言葉。鎮西氏・浜田氏お二人とも一旦地元を離れ別の仕事をして、その後地元に戻り和紙の仕事に就いたということでした。お二人の話しから気付いた事は、これほどの緻密で精緻なモノづくりをしているにも関わらず、製品よりも人が作る行為そのものに誇りを持っているというコトが印象的でした。
質疑応答では、質門も多くありましたが、時間いっぱいとなりこの後は土佐和紙の関連企業4社に直接お問い合わせ願う、ということで閉会の運びになりました。まだまだ語りつくせない事があり、また次回の土佐和紙の勉強会が望まれるところです。